こちらは、兵庫県姫路市にある50年以上放置されている空き家。
屋根が崩れ落ちて、雑草に覆われている。
13年前(2008年)には、「草が伸びすぎて通行に支障が出ている」と、近隣住民が撤去の申し入れたが、そのまま放置され続け、3年前(2018年)に倒壊してしまった。
なぜ、市は倒壊するまで放置したのか?
姫路市の担当によると、
個人の資産なので、基本的には個人の責任。行政が指導する法的根拠がない。
とのこと。
市は、住民の安全を守るため、倒壊したがれきの撤去し、被害拡大を防ぐために囲いを設置。
かかった費用53万6000円は、税金で建て替え所有者に請求することに。
しかし、空き家の所有者は既に亡くなっていて、姫路市が相続人の調査を始めると、驚きの新事実がわかった。
この空き家の所有権を持っている人が約200人、生存している人で93人いるとのこと。
姫路市が独自で作成した家系図には、作成に5カ月、費用は120万円かかったという。
この空き家の登記上の所有者は、江戸時代の1863年に生まれ、1940年に亡くなった男性。
この1940年、旧民法では、戸主が亡くなった場合、長男が全遺産を相続するのが原則とされていたため、男性の長男が相続する。
戦後の民法改正で、配偶者やきょうだいなどの親族にも、遺産相続の適用範囲が拡大。
長男は、1951年に亡くなるが、配偶者や子どもが自分よりも早く亡くなっていたため、家の所有権はきょうだい7人に移る。
しかし、このきょうだいの7人も、13年前(2008年)には全員が既に亡くなっていて、
現在、所有権があるのは、孫の世代で12人、ひ孫世代46人、玄孫(やしゃご)世代32人、来孫(らいそん)3人の合わせて93人にのぼる。
東は関東から、西は九州までいるという倒壊空き家の所有者たち。
姫路市は、93人の住所を把握し、応急措置にかかった費用の請求書を送付。
そのうち、約20人から連絡があったという。
孫世代の1人によると、
疎開先でその空き家へ行ったきりで、その後は行ったことがない。
ひ孫・玄孫世代によると、
なぜ姫路市からこんな文章が届くんですか
とのこと。
現時点で、市が回収できているのは、53万円のうち、わずか4万4000円。
請求に応じたのは93人中13人だった。
さらに、空き家を撤去する場合、約500万円かかると見積もっている。
この空き家を撤去するハードルがこちら。
・費用は500万円以上。
・同意書が必要 → 所有権を持っている93人の実印。
これに対して、姫路市の担当者は「どうしていいかわからない」という。
今回のように、相続で登記が行われなかったことなどが原因で、所有者が不明となっている土地を全国の市町村で調べたところ、調査対象の約2割が所有者不明だった。
この土地の面積を足すと 410万haで、これは九州の面積を超える大きさ。
こうした所有者不明の土地を減らすための法律の改正案が今、国会で審議されている。
現在は、相続に関する不動産登記をする期限が決められていないため、相続の登記がされずに放置されていても、罰則規定がない。
しかし、法律が改正されると、相続の登記が義務化されて、不動産を取得したと知った日から、3年以内の申請が必要になる。
これに正当な理由なく違反すると、10万円以下の過料が科される。
さらに、法律が改正されると、相続が複雑なケースにも対応できるようになる。
現在、不動産を処分するには、連絡がつかない相続人に対して、裁判所が1人ずつ代理人を決めている。
そこで、今後は、連絡がつかない相続人に対して、まとめて1人の代理人で済むようにして、スムーズに処分できるようにする。