トランプで、スペードのエースだけ、大きくて派手なのはなぜ?という話がありました。
これについて、高橋浩徳 先生(大阪商業大学 アミューズメント産業研究所)が説明していました。
スペードのエースが大きく派手になったキッカケは、18世紀のイギリスのトランプ。
この頃のイギリスは、度重なるフランスとの戦争で、お金に困っていた。
そこで、新たな税金を考え出す。それが「トランプ税」。
18世紀のイギリス国内は、トランプを使った違法なギャンブルが流行、トランプが飛ぶように売れていた。
そこで国は、トランプに高い税金をかければ、お金は入るし、違法なギャンブルも減るだろうと考えた。
税金を納めるのは、トランプを販売しているメーカー。
キチンと税金を納めた証明として、1セットあたり1枚のカードにスタンプが押された。
それが、スペードのエースだった。
トランプを作る時、1枚の大きな台紙に、全てのカードを印刷する。
この時、スペードが上の段に印刷されることが多く、裁断して揃えると、スペードのエースが一番上になりやすかった。
この頃のスペードのエースのマークは、まだ他のマークと同じ大きさ。
余白の部分に、税金を納めた証拠のスタンプが押された。
この時、かけられた税金があまりにも高かったため、脱税を企てるトランプメーカーと、税金を納めてもらいたい役所との間で、イタチゴッコが始まった。
1711年に始まったトランプ税は、当初6ペンス。
1801年には、2シリング6ペンスまで、増税された。
これは、あえて分かりやすく現在の円の価値に換算して、仮にトランプの原価を200円とすると、約400円の税金が860円に跳ね上がったようなもの。
これでは、商売あがったりと、トランプメーカーは、税金を納めていないのに、納めたようにみえるスタンプを偽造。
税金を納めていない違法なトランプが、世の中に出回る。
最初のスタンプは、デザインが単純で、すぐにマネされていた。
そこで、模様などを複雑にして、マネされにくい柄へと変わっていった。
しかし、新しいスタンプを作っても結局マネされる イタチゴッコが繰り返される。
その中で、模様は、どんどん複雑になり、現在のスペードのエースの元となる マークを囲うスタンプも登場するが、これも偽造されてしまう。
こうして、1765年スタンプの代わりに生まれたのが、納税した証しとして、後からスタンプを押すのではなく、既に印刷されたスペードのエースカードそのものが、税金を納めた証明になった。
しかも、そのデザインは、簡単にマネできない複雑なデザイン。
すると、トランプメーカーは、納税の証しであるカードそのものを偽造。
結局、トランプを作る側と役人とのイタチゴッコは続くことになる。
さらに、これだけではなく、役人は税金を安くする策を打ち出した。
1800年代前半のイギリスは経済が好調。
トランプからわざわざ高い税金を取って偽造が横行するよりは、税金を安くして偽造をなくし、確実に納税してもらう方が効率が良かった。
そして、1862年になると、税額はさらに引き下げられ、販売会社がスペードのエースを自由に印刷できるようになった。
この時から、スペードのエースのデザインは、メーカーの顔として、オリジナリティーに富んだカードへと、変わっていった。
その後、1960年、イギリスでトランプ税は廃止。
スペードのエースは、大きく派手なまま残り続ける。
ちなみに、日本でもトランプ税があった。
1989年の消費税導入前までは、トランプ・花札・麻雀牌に課される「トランプ類税」という間接税があった。
税額は、1962年以降は、トランプ1組あたり40円。
納税の証明として、「トランプ類税証紙」が貼られていた。