「かゆい」って何?という話がありました。
これを、「かゆみ」について研究している 高森健二 先生(順天堂大学 医学部 特任教授)が説明していました。
人類が誕生してから約700万年もの間、人々はかゆみがなんなのか考えてこなかった。
実は、かゆみの研究がされるようになったのは、1950年ごろ。
そのころから、約50年くらいは、「かゆみ」イコール「軽い痛み」と考えられていた。
しかし、1997年に、それが間違いだったということが、はっきり分かった。
それまで、かゆみを感じる神経はないとされ、痛点にある痛みの神経が感じる、弱い痛みが「かゆみ」であると、考えられていた。
痛みは皮膚だけでなく、体の臓器が傷ついても痛みを感じる。
しかし、かゆみは体内の臓器では感じない。
「胃が痛い」ということはあっても、「胃がかゆい」ということはない。
では、かゆみとは、一体何なのか?
かゆみは、体を異物から守る防衛反応であり、警告反応でもある。
例えば、服を着て背中がかゆくなるのは、かぶれたからではなく、皮膚にかぶれなどを起こす、太くて硬い繊維などがついたよ、という警告のサイン。
虫に刺されてかゆくなるのは、虫が刺して体内に入った毒で、かゆくなっているのではなく、
「毒のせいで、これから炎症が起きますよ」と、体が出している警告のサイン。
かゆみは痛みを感じる「痛点」ではなく、かゆみを感じる「痒点(ようてん)」の真下にあるかゆみを伝える神経を通って脳に伝わっていることが、約25年前にわかった。
皮膚にかぶれを起こす異物がついたり、虫に刺されたりすると、
その場所に近い肥満細胞と呼ばれる細胞からヒスタミンというかゆみ物質が分泌される。
これが、かゆみの神経を通じて脳に伝わり、異常がおきている場所を「かゆみ」という症状で、我々に知らせていた。
「かゆい」という無意識に行う、この「かく」という行為。
なぜ、かくのか?
最新の研究で、痛みの神経がかゆみの神経を抑えることが、科学的に明らかになった。
かゆい所をかくと、
近くの痛みを感じる神経も同時に刺激され、GABAやグリシンという物質が分泌される。
これが、かゆみを伝える神経の働きを抑えるので、かゆみがおさまる。
つまり、私たちは、痛みを与えることで、かゆみを抑えている。
しかし、「かく」よりも、もっといい方法がある。
それは、かゆい部分を「冷やす」こと。
冷やすことで、皮膚表面は、ずっと痛みを感じる状態になるので、かゆみを継続的に抑えることができる。
例えば、氷をずっと持っていると、氷に触れている部分が痛いと感じる。
このように、皮膚を冷やすと、私たちは、それを痛いと感じるので、
皮膚を傷つけずに、かゆみを抑えることができる。
それなら、かゆくなれば「冷やせばいい」と侮ってもいけない。
実は、体を異物から守る防衛反応以外に、
命に関わる内臓の病気の場合、体の表面が猛烈にかゆくなることがある。
例えば、がんになると、がん細胞からかゆみ物質が放出され、かゆみの神経を伝わって、痒点がある皮膚の表面がかゆくなると考えられている。
肝硬変や糖尿病、悪性リンパ腫など、かゆみは、体の異常を知らせる重要なサインでもある。