なぜ映画館は暗いのか?という話がありました。
テレビは明るい所で見るのに、これはなぜか?
これについて、毛塚善文さん(日本映画テレビ技術協会 事務局長)が説明していました。
テレビは明るい所、映画は暗い所、という違いには、それぞれの歴史が深く関係している。
まず、最初に誕生したのは「映画」。
1895年、フランスのリュミエール兄弟の手によって世界初の映画が作られた。
この当時の映画には、現在の映画と、2つの共通点があった。
1つ目は、現在の映画館と同じく、プロジェクターから出た光をスクリーンで反射し、私たちの目に届けるという点。
2つ目は、当時から映画は観客からお金を取るビジネスとして上映されていた点。
そのため、映画には、より大きな画面で、1度にたくさんの人に見せる能力が求められた。
映写機やプロジェクターは、スクリーンとの距離を離すことで、簡単に映像を大きくすることができるため、映画にはピッタリだった。
しかし、この装置にはある課題があった。
それは、昔は光源の性能が低く明るさが足りなかったので、暗い部屋でないと十分に見えないという点。
また、当時の光源には、熱を発するものが多く、もし強い光源をつけられたとしても、その熱でフィルムが溶けたり、変形したりするという問題もあった。
これらの理由で、映写機とスクリーンを使うのに適した暗い環境で映画を上映することになったと考えられる。
一方、テレビは、1953年に放送がスタート。
もともと家で使うものとして作られたので、映画とは違い、明るい部屋でも問題なく見ることができる必要があった。
そして、テレビは、画面の明るさを強くすることで、この課題をクリアするが、逆に、暗い場所には適さないものになった。
明るい所から、急に暗い所に移動した時に、だんだんと周囲のものが見えてくるというように、
我々人間の目には、周りの明るさに合わせ、見え方を調整する能力がある。
しかし、暗い環境に目が慣れた状態で、明るすぎる光や極端な点滅を見てしまうと、強すぎる刺激が脳に伝わり、意識障害などを起こす危険性があるという。
光の明るさが強いテレビの場合、明るい環境で見た方がこの危険を減らすことができる。
一方、映画は、テレビと比べて、明るさが弱いので、暗い空間で見ても、脳への刺激が弱く、危険性も低いと考えられている。
映画とテレビの明るさの違いが、両者を暗い場所で見るか、明るい場所で見るか、という違いにつながっている。
しかし、現在の映画館のほとんどでは、「デジタルシネマ プロジェクター」という装置が使われていて、フィルムではなくデータを使用している。
これにより、フィルムが燃えるリスクもなくなり、光源の性能も上がったため、プロジェクターでもテレビと同じくらい明るい光を使って映像を映すことが、技術的には可能になっている。
では、なぜ映画館は、暗いままなのか?
それは、映画に不可欠な「究極の黒」、これを生み出すため。
例えば、人が着ている黒い服には、シワがあったり少し色が落ちていたりと、黒一色では表現できない細かな質感がある。
この黒の違いを表現するため、最も重要なのが、一番黒い黒。
一番黒い黒が明るいと、黒として使える色の範囲が狭くなってしまい、表現の幅も狭まってしまう。
こちらが究極の黒の違い。
究極の黒ありの方が、影の強弱が生まれ、立体感が増している。
この究極の黒を作る最も簡単な方法は、部屋を真っ暗にしてなんの光もない状態を作ること。
真っ暗になったテレビの前にいる人の姿が、黒い画面に映っていることがよくある。
このように、モニターに照明や外の光が反射すると、「究極の黒」には、たどり着けない。
しかし、映画館は、真っ暗な中で見えているので、光の反射がなく、より深い黒を表現できる。
そのために、技術的に、明るい環境に負けない光源が作られた現在でも、暗い映画館での上映を続けている。
【補足】
最近のテレビの中には「シネマモード」「映画モード」という暗い部屋に合わせた設定を選べるものがあり、明るさを抑えた画面にすることが可能。