上下に動くエスカレーターが止まった状態で、
ただの階段のように上り下りしたことはないでしょうか?
その止まっているエスカレーターをのぼると変な感じがするのはなぜ?という話がありました。
これについて、脳の情報処理のメカニズムを研究している五味裕章さん(NTTコミュニケーション 科学基礎研究所)が説明していました。
止まっているエスカレーターをのぼると、変な感じがするのは、「考えない脳」があるから。
この現象は、専門的には、「壊れたエスカレーター現象」と呼ばれている。
この現象を引き起こすという「考えない脳」とは何なのか?
身体運動は、大きく言うと2つの脳がコントロールしている。
一つは、意識的に状況を判断するいわゆる「考える脳」。
もう一つは、「歩く」「走る」などの基本的な運動を無意識的にコントロールする「考えない脳」。
例えば、普段、私たちが歩く時、まず、右足と左腕を出して、次に、左足と右腕を出すなどと、いちいち考えることはない。
自転車に乗る時も、両手でハンドルを握り、サドルにまたがり、ペダルに足をかけて踏み出すなどと、いちいち考えてはいない。
これは、考えない脳が、無意識のうちに体をコントロールしているから。
そして、この考えない脳こそが、止まっているエスカレーターをのぼる時の変な感じに深くかかわっている。
考える脳は、エスカレーターが止まっていることを認識する。
そして、踏み込んで歩き始める。
次に、考えない脳は、「これはエスカレーターだから重心を前に倒さなければならないぞ」と体に伝えて体を勝手に動かす。
すると、前につんのめってしまい「おっとっと」となる。
普段、動いているエスカレーターに乗り込む時は、階段の移動に合わせて知らずしらずのうちに、体の重心を前に倒すような動きをしている。
そして、考えない脳は、止まっているエスカレーターでも、動いている時と同じように重心を倒そうとするtので、前につんのめるような感じになる。
さらに、足を下ろす動きについても、考えない脳は、無意識に動く階段の高さを予測するが、
実際は思っている高さに階段が来ないので、足がガクッと空振りしてしまう。
考える脳は止まっていることを知っているにもかかわらず、考えない脳が勝手なことをやるので、
そこに矛盾が生じて、それが違和感を生んでいる。
こちらは、研究用に作られたエスカレーター。
この手すりとステップを隠したエスカレーターをのぼった場合、違和感がない。
要はエスカレーターに見えるか見えないかが、非常に重要。
つまり、考えない脳がエスカレーターだと認識しなければ、変な感じは起きないということになる。