なぜ同時通訳ができる?という話がありました。
これについて、通訳・翻訳について研究している山田優先生(立教大学 教授)が説明していました。
同時通訳に大きく関わるのは、脳に入ってきた情報を一時的に記憶して処理する、
「ワーキングメモリ」という部分。
例えるなら、脳の中に作業机があるようなイメージ。
このワーキングメモリには、情報を入れておけるスペースが、一般的に4つほどしかなく、
全て埋まってしまうと、それ以上は覚えておけない。
例えば、スーパーに牛乳を買いに行ったはずなのに、色々なものに目を奪われていると、
古い情報、つまり牛乳が押し出され、「あれ?何を買いに来たんだっけ?」となる。
このワーキングメモリのスペースの数は、多少の個人差もあるが、同時通訳者も普通の人も大きな違いはない。
そして、スペースの数を増やすことは、ほとんどできない。
英語を日本語に訳す時も、聞き取った英語で脳の作業机のスペースが埋まる。
この状況だと次の英語が入るスペースがないので、最初に聞き取った英語を忘れてしまったり、
日本語訳を考えている間に、続きの英語が入ってこられず、分からなくなったりする。
そこで、同時通訳ができる人は、入ってきた英語をすぐさま日本語に訳し、
しゃべることで、情報を消すという作業を行っている。
あっという間に情報を消せば、
空いているスペースを使って、次々に入ってくる英語を同時通訳できる。
しかし、特に英語を日本語に訳す場合、難しいポイントがある。
例えば、「私は、小さい頃、家の近くにある教室でピアノを習っていた」、
という、この英語の文章。
文章の順番が日本語と英語では全く違い、英語で最後にくるブロックは、日本語では最初の方にくる。
つまり、英語を最後まで聞かないと、分かりやすい日本語には訳せない。
しかし、脳のスペースは4つ。
すぐに埋まってしまい、文章の最後まで入れることはできない。
そこで、ワーキングメモリがいっぱいになる前に、
そこまでの英語を訳して捨ててしまう。
文章全体の意味が分からなくても、ある程度意味が分かるブロックごとに、つじつまを合わせながら訳してしゃべり、
スペースを空けていく。
こうすれば、次々と聞こえてくる英語が入れるスペースを空けておくことができる。
そして、さらに熟練の同時通訳者になると、1つのスペースに英語をたくさん入れることができるようになる。
例えば、普通ならスペースが5つ必要な先ほどの文章。
熟練の同時通訳者は、2つのスペースで済ませることができる。
英語力が上達すればするほど、長い文章を入れておくことができる。
つまり、覚えておけるので、その分ワーキングメモリのスペースを空けておくことができる。
さらに、もっと熟練の同時通訳者になると、文章全体を映像化して日本語にする。
これなら、スペース1つで収まる。
このように、熟練の同時通訳者は、いろんなテクニックを使ってスペースを節約して、
頭の中に入ってきた情報をすぐに消している。