なぜ日本人は「生」が好き?という話がありました。
(早口言葉でも、「生麦・生米・生卵 京の生鱈、奈良生真名鰹」とあるが・・・)
これについて、食文化史研究家の 永山久夫 さんが説明していました。
「生」と付くと、新鮮とか、やわらかいとか、おいしいとか、良いイメージがある。
ところが、外国人は違う。
・ウクライナでは生で食べる習慣がない、生は危ないイメージ
・ミャンマー人はあまり生で食べない、バクテリアがたくさんいる
など、
外国では「生=危険」のイメージが強い。
では、なぜ、日本人は”生”が好きなのか?
魚や卵を生で食べると、食中毒の危険性が高くなる。
しかし、日本は島国なので、他の国に比べて 鮮度の良い魚を食べる機会が古くから多かった。
そのため、多少のリスクを背負っても、生で食べるのが、一番のごちそうと思うようになった。
仏教の教えに基づき、魚と野菜が中心の食生活だった日本では、新鮮な魚を生でおいしく食べる方法が追求されてきた。
奈良時代の「日本書紀」に、
「景行天皇が海の中に入ると はまぐりを得た この時に磐鹿六鴈命(いわかむつかりのみこと)が そのはまぐりを膾(なます)にして献上した」
とある。
膾とは、もともと 生肉や生魚を酢につけて食べた料理。
最古の和食とも言われている。
生の魚を殺菌作用のある酢につけて、少しでも安全に食べようとしたという。
こうして、日本人は、なま物をいかに安全に食べるかに挑戦し続けてきた民族。
わさびやしょうゆの殺菌・抗菌作用も、なま物を食べるのに役立ててきた。
その傑作が「にぎり寿司」。
シャリは「酢飯」でネタをのせ、「わさび」や「しょうゆ」をつけて食べる。
みな殺菌作用のあるものばかり。
これは日本人の知恵。
昔は、どの家にも庭があり、香辛料・香辛野菜・野草が植わっていた。
山椒・野蒜(のびる)・紫蘇(しそ)など、なま物を安全においしく食べるために、
自分の家で作って、いつでも対応してきた。
また、日本では仏教の教えに基づき、長らく卵を食べることが避けられていたが、
江戸時代になると、海外から卵をおいしく食べる文化が伝わり、日本でも食べるようになった。
江戸時代の川柳の句集「誹風柳多留(はいふうやなぎだる)」に、
「生たまご 醤油の雲に 黄身の月」
(器に盛って生卵をしょうゆをかけた、すると、雲のように見えた。)
とある。
こうして、何ごとにも工夫を凝らす日本人らしく、様々な挑戦を続けることで、
食中毒などのリスクを乗り越えて、他の国にはない生食の文化を育んできたと考えられる。
しかし、生魚も生卵も庶民にはなかなか手が届かない贅沢なご馳走。
庶民にも広く生のおいしさが伝わるようになった出来事があった。
それが、冷蔵庫の登場。
新鮮な状態を長く保つことができるようになり、生のおいしさが全国の家庭で実感できるようになった。
その後、流通が発達し、新鮮な食材が、いち早く届くようになり、
なま物を、より安全においしく食べることが可能になった。
更に、日本人の「生」好きを決定的にしたのが「生ビール」。
ビールは、もともと、熱を加えて酵母の発酵を止める。
熱処理をせずに、ろ過だけで酵母を取り除いたビールのことを
日本では「生ビール」と言う。
「生ビール」というと、サーバーからジョッキに注いだビールをイメージしがちだが、
実は、私たちが手に取る缶ビールや瓶ビールも、ほとんどが熱処理をしていないので、
分類としては「生ビール」に入る。
本来「生」とは、加熱していないことを指す言葉だったが、
「生=おいしい」のイメージが浸透したことで、
加熱していても「生」と名付ける商品が誕生するようになる。
2000年ごろに、一大ブームになった生チョコ、
2007年ごろに、人気に火がついた生キャラメル、
他にも、生食パンなどがある。