「おならの歌」の話です。
依頼内容
この度、我が家に伝わる「おならの歌」についてのご依頼です。
歌といってもメロディーはなく、俳句や川柳のように、詞を読み上げるもので、
家族の誰かが、おならをした時、みんなで一斉に、このように言います。
「屁をひって かならずはじとおもうなよ
屁には ななつのとくがある
おとあり かぜあり においあり
えんしょいらずの たまいらず
しりのほこりが とれてさっぱり
まだそのうえに ぷーすーぴーのさんしゅあり」
この歌は、現在96歳の祖父から我が家に伝わるものです。
祖父は、かつて船乗りをしており、およそ76年前、舟の中で、
同僚の船乗りから聞いたようですが、そのルーツについては、
詳しくは分からないようです。
この「おならの歌」は、一体いつできたのか?
どこから来たのか?そのルーツが知りたいです。
調査開始
依頼者の祖母が亡くなったことがキッカケで、
祖父が亡くなる前に、この歌のルーツの謎を解きたいということだった。
歌の内容は、おならをして怒られているのではなく、恥ではないと励ますもの。
この歌について、島村恭則 先生(関西学院大学 社会学部教授)が説明していました。
先生は、民俗学の専門家で、国内外に伝わる民間伝承について研究している。
実は、この歌は、いろんな時代のいろんな人が付け足してできた集合体。
1行目の「屁をひって かならずはじとおもうなよ」
これに似たような表現があり、江戸時代1757年に書かれた本に、このフレーズが記載されている。
井本蛙楽斎(いもと あらくさい)が書いた本の「薫響集(くんきょうしゅう)」。
江戸時代は、俳句や川柳が盛んで、五七五の語調がいいので、口ずさみやすい。
ちなみに、有名な平賀源内が書いた「放屁論(ほうひろん)」では、放屁芸人を取り上げている。
色んな音を使い分けたり、おならしながら回転したりなど、サーカスみないなことをしている。
次に2行目の「ななつのとく」に似たもので、
「屁には三つの徳がある」というのが、明治39年に出た「俚諺辞典(りげんじてん)」という、
世の中に流布してることわざを集めた辞書。
この中に、「屁の三徳」という項目があり、気分が晴れる・お腹が空く・お臀の塵が吹き飛ばされる、
これが、「しりのほこりがとれてさっぱり」という部分に似ている。
辞書に載るぐらいなので、世の中に広まり、みんなが知ってたはずだが、屁のように消えていく。
それが、舟の上に行って、つながって、時代を超え、この家族に受け継がれた。
歌の最後の行も、実は、祖父が付け足したという。