美術評論家の布施英利 さんが、解剖学から見た「最後の晩餐」の話をしていました。
人を描く時に重要なのが「顔」。
それと、もうひとつ大切な体の部分があって、それは「手」。
心の状態を表すのに、もちろん表情から読み取ることができるんですけども、
もうひとつ「手」。
例えば、レオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」。
真ん中にキリストがいて、左側に6人、右側に6人いるんですけども、
1人1人が違う手の動きをしていて、心の状態が表れているんです。
人間の手の形が、これだけバリエーションがあるのかというのを描き切ってる驚きなんですね。
このように多様なんですけども、それだけじゃないという話で、
レオナルド・ダ・ヴィンチは解剖学の研究をしておりまして、
人間の腕というのは前腕が引っくりかえるんですね。
二本の骨が引っくり返るんです。
それを、回内(かいない)、回外(かいがい)といいます。
レオナルド・ダ・ヴィンチは、このことに最初に気づいた人だともいわれています。
それで、最後の晩餐を見てみると、
キリストから見て、右側の人たちは、全員の親指が内側を向いているんですね。
手を上げてても下げてても同じなんですけども、
6人が全員違うポーズをしているようなんですけども、全員が「回内」なんです。
逆に、左側の人たちは、全員の親指が外を向いているんですね、「回外」なんです。
で、真ん中のキリストはどうかというと、まるで指揮者のように、
右側に回内といったら全員「回内」、左側に回外といったら全員「回外」となっていて、つまり、たいへんな多様性があるとともに、一方ですごくシンプルな統一性があるんですね。
これが素晴らしい芸術だという話ですね。