先月、雑誌「モーニング」に掲載された「ぱいどん」。
手塚治虫作品を学習したAIとヒトで制作された新作漫画。
2030年の東京で、進んだ管理社会に背を向ける男・ぱいどん。記憶をなくしたホームレスだが、小鳥ロボットのアポロとともに事件に立ち向かうというもの。
一体この作品はどうやって作られたのか?
AIを担当した慶應大学の栗原聡 教授が話をしていた。
技術的に僕らに何ができるかっていうと、1つはストーリーに何かしら寄与すること。もう1つは新しいキャラクターを作ることに対して、何かしら技術的にできることはないか、この2つ。
新しいキャラクター作りでは、AIは何をしたのか?
以下の記事を参照。
一方、ストーリー作りでは、AIは何をしたのか?
完成された小説を出すのではなく、そのアイデアの素、例えばシナリオでいったらば「あらすじ」など。一番最初の背骨に相当するところを出すことが、人工知能ができることではないか。
今回、AIが担当したのは、物語の大筋や設定。
いわゆる「プロット」と呼ばれるもの。
そのために、栗原教授が利用したのは、
物語を13の要素で分類するという研究。
すべての物語を、「発端」・「展開」・「結末」という3つの大きな構造に分け、さらに、それぞれの中で細かく合わせて13の要素に分類していく。
「日常」「事件」「決意」「苦境」「支援」
「成長」「転換」「試練」「危機」「糸口」
「対決」「排除」「満足」
これに当てはめるため、手塚作品を一度文字に書き起こしたうえで、
データとして入力していくという、人の手でしかできない膨大な時間がかかる大変な作業。
だが、これによって分かることがある。
手塚治虫作品が、この構造にのっとっているとした時に、どういう風にこの構造の使い方をしていたのか。
作者によって、要素の使い方は全く違う。
人によっては順番が違ったり、
ある要素をしっかりと描いたり、逆に描かなかったり、
毎回ある要素を使わない人もいる。
この作業によって、いよいよAIは手塚の個性を理解する。
最初はすごく苦労するが、ひととおり苦労が終わると、
いよいよ、コンピューターの得意であるところの量産になる。
アクションの度合い、時代設定、キャラの性格・性別・フィクションの加減・ジャンルなど、
要素を入力して生成ボタンを押すと、物語の骨格となるプロットが次々にできあがってくる。
もちろん、すべて手塚治虫の特徴を出したプロット。
例えば、売れっ子の漫画家は、短時間で多くの作品を作らなければならない。
しかし、アイデアがそんなに出るわけない。
作家によっては、外に行ってアイデアを見つけたりする。
そういった時に、こういった人工知能がアイデアの種を出してあげれば、それは想像力についてはすごく寄与する。
今回でいうと、このプロットが100個あれば、100個の種があるからこそ、そこからイマジネーションを膨らましやすかった。だけど、何もない状態から100個作れといっても難しい。100個というのは、1人の人間が考えることだから。もしかしたら、あまりバリエーションがないかもしれない。
だけど、AIというのはバリエーションは関係ない。
手塚治虫的なものだったら何でも出す。
何もないところから、偏りなくアイデアを出し続けられる。
一度作ってしまえば、手塚のアイデアを無尽蔵に作り出せる、それがAIの強み。
AIが出したプロットとキャラクターをもとにクリエーター陣で発想を広げ、新作漫画は完成させられた。