稲川淳二さんが出席した結婚式で聞いたお話です。
新郎の叔母がスピーチした思い出話に基づく、稲川怪談不朽の名作「蛍火」。
「カズくん、お姉ちゃんと蛍狩りに行こうか」
幼い甥(おい)を連れて、蛍狩りに出かけた
漆黒の闇の中で、青く光る蛍火がゆったりと飛び交っている
幼い甥が小さな手で1匹捕まえると
それを虫かごに入れて・・・、
「これ、お母ちゃんに見せてやるんだ」
と、うれしそうに言った
次の日・・・、
病室のお母さんに虫かごの蛍を見せてやると・・・、
「そう、カズくんが捕まえたの、偉いねぇ」と言った笑顔から
涙が 一筋 こぼれた
その晩、遅く
カズくんのお母ちゃんは息を引き取った
幼い甥は、虫かごの蛍を逃してやった
青い小さな光が闇の中に消えていった
それはお母ちゃんの魂のようだった
葬式を終えた後・・・
悲しみにくれるカズくんを、叔母は蛍狩りに連れて行った
「ほら、カズくん、きれいだね」と小さな声で言うと、
「あれ?」
「お母ちゃん?」
「お母ちゃんかな?」
と、つぶやくように言ったんで、
「ん?どうした?」って聞くと、
「あっ、お姉ちゃんの声か」
「お母ちゃんかと思っちゃった」と言った
そんな幼い甥を そうっと抱き締めた
帰り道・・・
青い蛍火がひとつカズくんの周りを、
静かに周って飛び去って行った
「お姉ちゃん、今、僕の頭なでた?」って聞くんで
「ううん、どうして?」って答えると、
「あっ、じゃあ やっぱり、お母ちゃんだ!」
「お母ちゃんの匂いがした」
「いつもみたいにね、僕の耳のとこ、こちょこちょってしたんだよ」って言った
暗闇の中で 涙があふれて止まらなかった
あの幼かったカズくんが、この夏、父親になる