インフルエンザ予防の新技術「経鼻ワクチン」の話:ニュースウォッチ9【2020/10/28】

これが、新たに開発されたインフルエンザワクチン、

鼻の中に吹きかけるだけの「経鼻ワクチン」。


このワクチンを開発したチームのリーダーの長谷川秀樹さん(国立感染症研究所 インフルエンザ研究センター センター長)。

去年(2019年)の末に臨床試験を終了し、実用化に向けた準備が進められている。

経鼻ワクチンは、少ない副作用で効果を高めることが極めて難しく、研究は長い歳月がかかったという。

長谷川「大きな特徴は”不活化ワクチン”。生きていないウイルスを元に作ったワクチンですので、それ自身が感染を起こすことがない。理想的なワクチンじゃないかと思って、20年来研究してきた。」

【強み1】ウイルスを入り口で食い止める

経鼻ワクチンの1つ目の強み。それはウイルスを入り口で食い止めること。

実は、これまでの注射のワクチンは、感染を完全に防ぐことができず、重症化の予防が目的。

注射の場合、ワクチンは直接体内に打ち込まれる。

すると、体内にはウイルスを攻撃する武器「抗体」ができる。

インフルエンザウイルスが体内に侵入し感染を起こすと、抗体が攻撃を加え重症化を防ぐ。

重症化を防ぐ

一方、今回の経鼻ワクチンは、感染そのものを防ぐのが目的。

ワクチンは鼻の粘膜に吹き付けられる。

この時、つくられる抗体は、鼻の粘膜の表面に放たれる。

口や鼻からウイルスが入ってくると、とらえ体内への侵入を防ぐ。こうして感染を起こさせないと考えられている。

【強み2】攻撃力の強さ

2つ目の強みは、攻撃力の強さ

注射でできる抗体は、「Y(ワイ)」の字の形をした「IgG抗体」。

一方、粘膜でできる抗体は、「Y(ワイ)」の字が2つくっついた「IgA抗体」、「2量体」と呼ばれている。

抗体は、腕の先端でウイルスをつかまえる

「IgA抗体」の方が腕が2倍多く、その分感染を防ぐ力が強いと長谷川さんは指摘。それだけではなく、中には腕が8本ある「4量体」の「IgA抗体」があることも分かった。

【強み3】ウイルスの変異にも対応

3つ目の強みは、ウイルスが変異しても対応できること。

インフルエンザは、変異しやすいウイルスとして知られている。

そのため、ワクチンを注射しても効果がでないこともあった。

ところが、今回開発された経鼻ワクチンは、この問題も克服した。

長谷川さんは、マウスを使ってウイルスの変異に対応できるか検証した。

まず、ベトナム由来の鳥インフルエンザのワクチンを注射と経鼻でマウスに接種する。

その後、タイプの違うインドネシア由来の鳥インフルエンザウイルスにマウスをさらして変化を調べる。

すると、注射でワクチンを打ったマウスは、10日後にすべて死に、経鼻ワクチンを打ったマウスは、18日経っても80%が生きていた。

長谷川「粘膜の抗体の方が血中の抗体に比べて、(経鼻ワクチンは)変異ウイルスに対して効果がある。変異に強いワクチンといえる。」

長谷川さんは、この製造法を応用すれば、新型コロナウイルス(COVID-19)用のワクチンも開発できると考え、研究を急いでいる。

このインフルエンザ予防の経鼻ワクチンは、今後、製造工程の整備などを経て、国への承認申請をする予定で、実用化にはあと2,3年かかるという。