なぜクリスマスにチキンを食べる?という話がありました。
これについて、道家英穂 先生(専修大学 文学部 教授)が説明していました。
クリスマスにチキンを食べるのは、「人々がはしゃぎ過ぎたせい」。
そもそも、クリスマスとは、キリストの生誕をお祝いする祝日だが、元々は違うお祭りだった。
古代ローマ時代、12月になると、農業の神様に来年の豊作を願う「農神祭」が行われており、これがやがてクリスマスになったといわれている。
12月17日から7日間、奴隷にも自由が与えられて、身分の違いを忘れて楽しむ祭り。
さらに、4世紀になると、キリスト教の指導者たちが布教のために、12月25日をキリストの生誕をお祝いする日と定めた。
しかし、今のような娯楽や行事が少ない時代、お祝いは思わぬ方向に・・・。
クリスマスチキンは、うたげ好きの大人たちの失敗と反省の末の誕生。
昔、真冬のヨーロッパで、クリスマスの前身のお祭りが行われていた。
人々は、お祭りで、ふだんのうっぷんを晴らすように、どんちゃん騒ぎしていた。
そして、年々、度を越して、ハメを外しすぎるようになった。
若者たちが、「酒をよこせ」と住居に侵入したり、酔っぱらいが教会を襲撃したり、賭け事をしたり、裁判沙汰になってしまうくらいのクリスマスだった。
さらに、あることが問題になった。
はしゃぎ過ぎて、クリスマス料理を食べすぎるようになった。
1213年、イギリス ジョン王の宮廷では、ワイン6,500リットル、豚400頭、ニシン15,000匹、ウナギは10,000匹食べたという。
ワインは、お風呂満タンで、35杯分。
豚肉は、豚カツ2万枚分。
当然、食べ切れるわけもなく、大量のフードロスも起きた。
大量の料理と、食べ残しが問題になって、14世紀には、イギリスの王様 エドワード3世が、クリスマス料理の縮小を法律で定めた。
その後、16世紀のイギリスでは、どんちゃん騒ぎを嫌うプロテスタントの影響が大きくなった。
そこで立ち上がったのが、イギリス国教会で、当時、一番偉かった 大主教のトマス・クランマー。
牛や鶏は、牛乳や卵がとれるので、クリスマスに大量に殺してしまうのはもったいない。
今後一切、クリスマスは他の料理をやめて、食肉用だけの「七面鳥」か「鶴」か「白鳥」のどれかを食べて下さい、と言った。
しかし、鶴や白鳥は筋肉が多すぎて、硬くて、消化不良になった。
その点、七面鳥は、肉厚でやわらかくて、人気があった。
しかも、七面鳥は結構大きくて、1羽で家族みんなが、お腹いっぱいになれた。
そのため、食べすぎたり、はしゃぎ過ぎたりしなくなった。
こうして、七面鳥がクリスマスに根づいた。
しかし、ここで大きな疑問が・・・。
日本では、七面鳥ではなく、「チキン」では?。
日本にも戦後、アメリカから七面鳥を食べる習慣が伝わった。
しかし、そもそも日本には、七面鳥があまりいない、
さらに、パサパサして日本人の口には合わないということで根づかなかった。
そこで、七面鳥の代わりに食べられたのが、日本でもたくさん飼育されていた、チキン(鶏)。
さらに、1970年代には、ケンタッキーフライドチキンのカーネル・サンダースが「クリスマスにフライドチキンを食べよう」というキャンペーンを行い、全国的に大ヒット。
そうして、日本では、「クリスマスといえばチキン」が浸透した。
ちなみに、世界的には、クリスマスの七面鳥・チキンは定番ではなく、バラエティーに富んでいる。
例えば、オーストラリアや南アフリカでは、夏にクリスマスを迎えるので、バーベキューが定番。
フランスでは、ラパン(ウサギ)のグリル。
チェコでは、鯉(こい)のフライ。
北欧フィンランドでは、お米を牛乳で炊いてシナモンと砂糖をかけた ミルクライス。
世界的に見ると、チキンを食べるのは、日本、ブラジル、ジンバブエなどで、あまり多くない。
以下補足:
七面鳥が食べられるようになった時代、クリスマスのお祝い自体が禁止された時期もあった。そして、クリスマスが町じゅうで大騒ぎをして暴飲暴食をする日ではなく、静かに家族でお祝いする日へと変化するなどして、七面鳥が定着していった。