なぜ平熱は36℃くらいなのか?という話がありました。
これについて、体温について研究している 中村和弘 先生 (名古屋大学 大学院医学系研究科 教授)が説明していました。
動物には、周りの温度によって体温が変わる「変温動物」と、一定に体温を保つ「恒温動物」がいる。
は虫類などの変温動物は、日光を浴びて体温を上げたり、逆に、水につかって体温を下げたりする。
一方、我々人間や犬、猫などの哺乳類や鳥類のような恒温動物は、自ら体温を一定に保つことができる。
人間以外の以下の哺乳類の平熱も
コアラ:約36℃
ハムスター:約37℃
ゴリラ:約37℃
犬:約38℃
常に37℃前後を保っている。
哺乳類は、は虫類からの進化の中で、体温を一定に保てるようになったと考えられている。
哺乳類が進化したのは、約2億年前。
進化の中で最も重要なポイントが、肺の機能の上昇。
肺は、毛細血管から酸素を取り込む。
は虫類の肺は、毛細血管が少なく、吸い込んだ酸素を取り込む表面積も小さいため、取り込める酸素の量が少なくなっている。
一方、ここから進化した哺乳類の肺は、肺胞と呼ばれる酸素を取り込むための器官ができたことにより、毛細血管が増え、吸い込んだ酸素を取り込む表面積も大きくなり、取り込める酸素の量が格段に増えた。
すると、体の中の酸素の量が増えて、体の中で作ることができるエネルギーも飛躍的に増えるため、スタミナが大きくなる。
は虫類と哺乳類が酸素を使って作ることができるエネルギーの量を比べてみると、その差は約10倍。
は虫類 < 哺乳類 (10倍)
このように、エネルギー量が増えると、環境の温度の影響を受けずに、体温をある程度の温かさで、保つことができるようになった。
これにより、哺乳類は寒いところでも暑いところでも、地球上のさまざまな所で生きていけるようになった。
さらに、エネルギー量が増えたことで、より活発に動けるようになり、生存競争でも有利になった。
(ならば、肺の能力をもっと高めて酸素量を増やして、エネルギーをたくさん作れるようになれば、哺乳類はもっと進化できる?)
そんな単純な話ではない。
エネルギーをもっとたくさん作るためには、多くの食物をとる必要がある。
つまり、体温が高すぎると、多くの時間を食べるために、費やさなえればならなくなる。
したがって、エネルギーを作る能力を高める過程で、体温は上昇したが、無限に上昇することはなく、適度なところで落ち着いた。
それが、今の平熱36〜37℃くらい。
つまり哺乳類は、地球上のさまざまな場所において、できるだけ多くのエネルギーを作りつつも、最も省エネで動ける体温になった。
さらに、体温には重要な働きがある。
コロナのような感染が起こったとき、体温が重要な役割を果たす。
感染時に起こる発熱には、ウイルスなどの病原体が増殖しやすい37℃よりも体温を上昇させて、その増殖を抑えるという働きがある。
また、多くの免疫細胞は、37〜40℃くらいで活発に働く。
つまり、発熱し、体温を上げることで、ウイルスを倒す働きを助けている。
(それなら、体温は常に高い方が、ウイルスから体を守れるのでは?)
それでは、体がもたない。
熱が出た時、体がだるくなる。
それは、体温を上げるために、大量のエネルギーを作ることで、体が疲れている。
なので、通常は36℃くらいに保ち、感染時に一時的に体温を上げ、病原体から体を守るというのが最も効率がよい。
ちなみに、平熱は、人種や筋肉量などによっても違う。
いわゆる欧米人は筋肉量が多く、体内の熱生産量が大きいので、37℃以上など体温が高い傾向にある。
日本人でも、筋肉量が多いボディビルダーは、やはり同じように平熱は高い。