1mは、何の長さ?という話:チコちゃんに叱られる!【2022/01/21】

1mは、何の長さ?という話がありました。

これについて、平井亜紀さん(産業技術総合研究所 長さ標準研究グループ長)が説明していました。

1mは、2億9979万2458分の1秒の間に、光が真空中を伝わる長さ。

光は、秒速約30万km。1秒間に約7周半進む。

その距離の2億9979万2458分の1が、1m。

そもそも長さの単位は、18世紀までインチ、ヤード、尺など、国によって使う単位がバラバラだった。

その結果、国同士が貿易をするようになった時に、取り引きをする単位がバラバラでわかりづらく、問題が起きていた。

そこで、大航海時代を経て、18世紀、「世界で統一した極めて正確な基準を作ろう」ということになった。

その中心となったのが、フランスの政治家で外交官である シャルル・モーリス・ド・タレーラン・ペリゴール(1754-1838)

彼の「世界基準の単位を作ろう」という提案を受け、フランスの科学者たちは、

北極点からパリを通って赤道までの子午線の長さをもとに、新しい長さの単位を作ることにした。

いったいどのように計測したのか?

北の町ダンケルクから南下するチームと、南の町バルセロナから北上するチームの2チームを作る。

その2つの町の緯度の差は、約10度。

北極点から赤道までの緯度の差は、ちょうど90度なので、2つの町の距離を測って9倍すれば、北極点から赤道までの距離が求められると考えた。

測量方法は、今でも行われている三角測量で、

山や川などの障害物があろうとなかろうと、ただひたすら真っすぐ、2つの都市を結ぶ子午線上を測り続けた。

しかも、フランス革命中だったこともあり、南下するチームは反政府軍に間違われたり、北上するチームは足止めを食らったりと、とにかく大変だった。

その測量に費やした歳月は、約7年。

ダンケルクからバルセロナまでの距離が計測できたことで、1798年、北極点から赤道までの距離、

つまり、地球の円周の4分の1の距離が、当時のフランスの長さの単位で、513万740トワーズと判明した。

これを 1000万分の1にした長さを 正式に「1m」と定めた。

しかし、なぜ 1000万分の1 だったのか?

18世紀当時、生活の中で使いやすい長さの目安として、男性が両手を広げた半分の長さが使われていた。

これくらいの長さを新しい単位の基準にしたいと考えた。

そして、当時、地球の円周のおおよその長さは分かっていて、その4000万分の1が、男性が両手を広げた半分の長さになると予想していた。

今回は地球の円周の4分の1を正確に測ったので、その距離の1000万分の1を1mと決めた。

この1mは、単位の世界に革命をもたらした。

1mが決まったことで、面積を表す1平方メートルが定まり、体積を表す1立方メートルが定まり、そこに入る水の量を1000リットルと定めて、その1000分の1を1kgと決めた。

つまり、メートルという単位は、私たちの生活に関わるほとんどの単位のもととなっている。

1mを定めたフランスは、1799年、プラチナで1mの「メートル原器」を作り、これを長さの基準とした。

その後、材料を白金イリジウム合金に変えるなど手直しを加え、30本の「メートル原器」を作成。

1889年、30本のうち1本を「国際メートル原器」と定めた。

そして、予備の2本を含む合計3本をパリに置き、残りの27本を世界中の国々に配った。

そのうちの1本が、産業技術総合研究所にある。

これが、日本の近代化における学術的な価値が認められ、2012年に重要文化財に指定された。

単位の基準は、絶対に変わってはいけないモノ。

しかし、物で出来ている以上、変わってしまうおそれがある。

つまり、丈夫で変化しにくいとされる白金イリジウム合金で出来たメートル原器でも、衝撃によって欠けてしまったり、年月によって1000分の1mmほど伸び縮みしてしまうことがあるという。

しかし、1メートルの基準となる原器は、1000分の1mmでも変わってはいけない。

そこで、物ではなく「絶対に変わらない基準に変更しよう」となり、19世紀末に注目されたのが「電磁波」。

物質を構成する原子から出る電磁波の波長は、それぞれ固有であることがわかった。

そこで、ある物質の原子から出ている電磁波を選び、その1つの波長の何倍がメートルの原器の長さに相当するかを測り、新しい基準にすることにした。

選ばれたのは、「クリプトン86」という原子から出る波がきれいで計測しやすい電磁波。

1960年の第11回国際度量衡総会で、クリプトン86の波長の165万763.73倍が、1mと定義が改められた。

ただ、この波長を基準にすることにも問題があった。

例えば、物差しで10cmのものを測るとき、目盛り線がぼやけていると、

目盛りの左側までなのか、右側までなのか、目盛りに幅があるせいで、あいまいになって長さが正確に測れない。

波長でいうと、両端の線の厚みの部分で、

その長さは、約1000億分の1mm程度。原子核レベルの大きさ。

白金イリジウム合金で出来たメートル原器の 1000分の1mm の物理的変化もダメ。

電磁波の波長の1000億分の1mmのあいまいさもダメ。

とにかく、世界中の専門家たちが「この世でいちばん変わらないもの」を考えた。

20世紀に入り、人類が見つけたものが「光」。

アインシュタインが提唱した「相対性理論」の「光は誰から見ても、一定の速度で進む」 という性質を使えば、間違いないということになり、新たな基準を光の速さに決めた。

そこで、真空中の光の速さを測ってみると、1mを進むのにかかる時間は、2億9979万2458分の1秒であることがわかった。

そして、1983年の第17回国際度量衡総会で、1mは、「2億9979万2458分の1秒間に、真空中を光が伝わる長さ」と改定された。