ここに、書道で使う道具がある。
薄くした墨汁と、半紙。
そこに、カタカナの「ナ」の字を書く。
もちろん、正しい書き順で。
横を先に書いて、後から縦を書く。
しかし、書いたものを見てみると、
交差している部分は、横の線の方が上にきているように見える。
本来の書き順なら、縦の方が上に書かれているはず。
先に書いたはずなのに、上にくる。
一体、何が起こっているのか?
実は、この薄墨と紙がポイント。
墨が紙につく所が見えやすいように、下から光をあててよく観察してみる。
一画目を書いた後、よく見ていると、書かれた線の周りに、水がじわじわとにじんでいくのがわかる。
そして、この水が染みた部分には、もうそれ以上、水分が浸透できないため、さらに上から書いても、
そこには、墨が定着できない。
この水が染みた部分が、線として残るため、先に書いた方が上に見えるということが起きていた。
【補足】
江戸時代の画家、伊藤若冲は、この現象を作品に取り入れ、その手法は「筋目描き(すじめがき)」と呼ばれている。