赤ちゃんの頭が大きいのはなぜ?という話がありました。
これについて、脳機能の発達を研究している 皆川泰代 先生(慶應義塾大学 教授)が説明していました。
大人に比べて、赤ちゃんの頭が相対的に大きいのは、
「この世界に生まれる」ということが、赤ちゃんにとって大きな試練だから。
その大きな試練を乗り越えるためには、「大きな脳=大きな頭」が必要。
一体どういうことか?
生まれる前、お母さんのおなかの中にいる赤ちゃんは、
生きるためのいろいろなことを
お母さんに、代わりにやってもらっている。
例えば、「へその緒」を通じて、お母さんが食べたごはんの栄養をもらい、
お母さんが呼吸した酸素をもらう。
暑さ・寒さを感じることも、ほとんどなく、お母さんのおなかの中という守られた環境では、
胎児自ら、体の機能を働かせる必要はそれほどない。
しかし、この世界に生まれてきた瞬間、赤ちゃんの環境は大きく変わる。
まぶしい「光」、さまざまな「音」、
「気温の変化」や「重力」などがある環境に順応しなければならない。
そして、自分で呼吸をして酸素を取り込み、栄養をとるために、自分の口を動かしてミルクを飲まなければならない。
この大きな試練を乗り越える時に活躍するのが、「脳」。
脳は、猛烈な勢いで働いて、この世界で生きるためのあらゆることに対応していく。
例えば、呼吸を始めるように指示を出すのは脳。
体温や血圧を適切な状態に調整するのも脳。
さらに、赤ちゃんは、生まれてから1〜2年で、体のあらゆる機能を一気に成長させる。
「指を動かす」「歩く」「しゃべる」など、できることが増えていくが、
これらを促すのも脳。
このように、脳は生まれた瞬間から、フル稼働し続けなければならない。
そのため、胎児は、お母さんのおなかという限られたスペースの中で、脳を最優先に成長させる。
つまり、生まれたばかりの赤ちゃんは、体のほかの部分より脳が最も成長している状態。
そのため、大人と比べると体に対して頭が大きい。
生まれたばかりの赤ちゃんは頭の大きさが、体の4分の1を占める4頭身ほど。
その後も、脳は成長を続けるが、5歳ごろ、頭の大きさの成長はストップ。
しかし、体の他のパーツは成長を続けるので、相対的に頭が小さくなっていき、
20歳ごろ、平均して7〜8頭身となり、体のバランスは完成する。
そして実は、赤ちゃんの頭が大きいことには、別のメリットもある。
大人は頭が大きい赤ちゃんを見ると、かわいいと感じて本能的に守ってあげたくなる。
これは、以前に紹介された 多くの動物の赤ちゃんにもある「ベビーシェマ」によるもので、
【1】体に対して頭が大きい
【2】丸みを帯びた輪郭
【3】大きな目がやや下にある
などの赤ちゃんの特徴を見ると、大人はかわいさを感じて、守ってあげたくなる。
これによって、成長途中のかよわい赤ちゃんは、大人に守ってもらえる。
赤ちゃんの頭の大きさは、「かわいい」ということでもある。
人間以外の動物の赤ちゃんも、大人より体の大きさに対して、頭が大きい状態で生まれてくることが多いが、人間の赤ちゃんは他の動物と比べて、より頭が大きく生まれてくる。
その理由のひとつとしては、
しがらみの多い人間社会で生きていくための高度なコミュニケーション能力などが備わった大きい脳を持っているからだと言われている。
例えば、赤ちゃんがお母さんと見つめ合ったり、お母さんの目線の先を見たりするというのは、
人間ならではの行動で、他の動物ではほとんど見られないという。