大西洋は「大」なのに、太平洋は「太」なのはなぜ?という話がありました。
これについて、国語辞典の編集にも携わる 関根健一 先生(大東文化大学 非常勤講師)が説明していました。
「大西洋」と「太平洋」は、どちらも、ヨーロッパでの呼び方が中国で訳されて、日本に伝わったもの。
しかし、その成り立ちは全く違う。
まず、大西洋は、英語で「Atlantic Ocean(アトランティック・オーシャン)」。
そのまま訳すと、「アトラスの海」となる。
アトラスの海とは、ギリシャ神話のアトラスという巨人の神様が、世界の果ての海の西側で、天空を支えていたことに由来するといわれている(※諸説あり)。
しかし、この「アトランティック・オーシャン」という英語が訳されて、「大西洋」という言葉になったわけではない。
「洋」という言葉には「海」という意味があるが、
大西洋とは「巨人海」とは訳さず、中国から見て「西」にある「大きな海」と訳したので、「大」という漢字が使われている。
一方、太平洋は、英語で「Pacific Ocean(パシフィック・オーシャン)」。
直訳すると、「穏やかな海」となる。
そして、太平洋の「太」という字は、「天下泰平」「安泰」などの「泰」と同じで、
「穏やか」「平安」という意味がある。
つまり、「太平洋」という言葉は、「太平の海」という意味で、
「穏やかな海」という「パシフィック・オーシャン」を意味そのままに訳した言葉。
では、なぜ太平洋は「穏やかな海」といわれるようになったのか?
現在の「太平洋」を「穏やかな海」と命名したのは、マゼラン。
マゼランは、1519年、当時アジアにしかなかった香辛料を求め、
世界で初めて地球一周を成し遂げた船を率いたスペインの探検家。
世界一周挑戦の際、スペインから大西洋を南に進み、南米大陸の南端にある、
後に「マゼラン海峡」と呼ばれる水路を通り、「太平洋」に出た。
その航海の時、マゼラン海峡は、船が思い通りにならないほどの悪天候だったという。
ところが太平洋に入ってからは、グァム島に到着するまでの航海の約4か月間、一度も嵐にあわなかったという。
実際に、マゼランの艦隊の乗組員が書いた航海記録には、
「まことにあの海は太平であって、この長い期間にわれわれはただの一度も暴風雨に出合わなかった。」
と書かれている。
このことから、マゼランは、その海を「穏やかな海」という意味の「マーレ・パシフィクム」と名付けた。
マゼランが名付けた この名前は、中国では「穏やかな海」という意味の「太平海」そして「太平洋」などと訳された。
これらの呼び方が、中国から日本にも伝わり、明治維新前後に「太平洋」という言葉で定着した。
「太平洋」は「穏やかな海」なので、「太平・洋」。
「大西洋」は「大きな西の海」なので、「大・西洋」と、意味の区切りが違う。