なぜ走ったあと息切れして苦しくなる?という話がありました。
これについて、呼吸と息切れについて長年研究している 黒澤一先生(東北大学 教授)が説明していました。
息切れして苦しくなるのは、「酸素が足りなくなり、呼吸するための筋肉が激しく動くから」と思われがちだが、
実は、あの苦しさは、筋肉ではなく、脳で起きている。
一体、どういうことか?
走ったあと、息切れするのは、血液の中の酸素が足りなくなったからと思っている方が多いが、実はそうではない。
呼吸というと、吸うことばかり意識してしまうが、
実は、息切れするのは、体の中に大量にできた二酸化炭素を外へ出そうとする反応でもある。
人間の体には、血液の中の酸素の量を感じるセンサー、そして二酸化炭素の量を感じるセンサーがある。
この2つのうち、二酸化炭素のセンサーの方が、体の中の変化に敏感になっている。
センサーで感じた二酸化炭素の情報は、大脳と脊髄の間にある呼吸中枢という所に伝わる。
呼吸中枢では、どれだけの量の二酸化炭素を吐き出さなければならないか計算し、横隔膜などの筋肉に司令が出る。
では、走った後は、どのような状態になっているかというと、
筋肉がたくさんエネルギーを使ったことで、二酸化炭素が大量にできる。
「二酸化炭素の量が増えた」という情報を受け取った呼吸中枢は、
外へたくさん吐き出させるため、横隔膜に激しく動くように指令を出し、呼吸の量を増やす。
この激しい動きで、人は苦しくなると思う人が多いが、
息切れした時の「苦しい」という感覚は、横隔膜の激しい動きが原因ではない。
実は、あの「苦しい」という感覚は、脳で起きている。
「息切れして苦しい」という感覚は、危険を知らせるための「脳の警報」。
脳は、常に「体がどれくらい呼吸をしているか」、つまり「どれくらい二酸化炭素を吐き出しているか」を感じている。
ふだん私たちが1分間の呼吸で吸ったり吐いたりする空気の量は、5〜6リットルほど。
この時、脳は呼吸の量を感じているが、意識まではしていない。
しかし、運動した後、息切れしている時の呼吸では、
1分間に100リットルほどの空気を吸ったり吐いたりしている。
この、ふだんと比べて呼吸の量が20倍ほどになった異常事態を察知して、脳は呼吸を強く意識するようになる。
この時、脳は「大変だ」「二酸化炭素をもっと吐き出せ」「このままだとダメだ」と叫ぶ。
そして、その叫びを「苦しい」という警報にして出す。
これが息切れの時に、私たちが感じる苦しさ。
ちなみに、マラソン選手であれ、運動不足の人であれ、走って運動すれば呼吸の量は増えて、
息切れした時の苦しさが大きくなるというのは、同じ。
(しかし、マラソン選手より運動不足の人の方が、息切れしてるイメージがあるが・・・)
これは、マラソン選手より運動不足の人の方が、息切れしている時間が長くなることと関係している。
実は、息切れして苦しいのは、マラソン選手も運動不足の人も同じ。
その差は、息切れしている時間の長さ。
マラソン選手と運動不足の人、この2人が、同時に坂を駆け上がった後、息切れが終わるまでの呼吸の量を測定してみる。
すると、走る前の状態に戻るまでの時間は、マラソン選手は10分、運動不足の人は16分となった。
同じ坂を駆け上がっても、運動不足の人の方が体を動かすのに、
よりエネルギーをたくさん使っているので、体の中に二酸化炭素がたくさんできているということ。
この時、二酸化炭素を体の外に出すために、運動不足の人が吐き出さなければならない息の量は、マラソン選手の約3倍だった。
肺活量、つまり1回の呼吸の量は、今回、運動不足の人の方が多かったが、吐き出さなければならない二酸化炭素の量が多かったので、息切れしている時間が長くなってしまった。
鍛えていないと、効率よく二酸化炭素を吐き出せないので、その分呼吸をたくさんしなくてはならず、息切れが長く続いてしまった。