以前は多かった、電車の車掌さんの鼻にかかった独特なアナウンス。
「ご乗車〜ありがとう〜ございま〜す。次は〜、○○駅〜、○○駅〜で〜す。」
なぜ、あの話し方なのか?
これについて、日本最大手の車内放送装置メーカー設計部の 山本聡さんが、説明していました。
そもそも、皆さんが耳にしている電車の車掌さんのアナウンスには、
「車内放送装置」が使用されている。
この車内放送装置が広く普及したのは、今から約70年前(1950年代頃)。
そのキッカケは、1951年に発生した列車火災事故。
当時の列車には、車内放送装置がなく、避難する乗客を安全に避難誘導できず、
そのため、車掌の声を確実に乗客に届ける車内放送装置の整備が必要になり、
1960年代、多くの車両に配備された。
これは、緊急時だけでなく、停車駅のアナウンスにも使用。
しかし、そこには、ある落とし穴があった。
それは、車内の騒音。
電車の走行中は、レールと車輪がこすれる音など、どうしても、騒音が発生してしまう。
そのため、普通の声でアナウンスしても、騒音にかき消されてしまい、
乗客にあまり聞こえないという問題が発生。
そんな中、生まれたのが、鼻にかかったあの独特な話し方。
実はあの話し方は、騒音の中でも聞き取りやすい話し方。
聞き取りやすさの違いを生むのは、音の周波数、つまり、音の高さの違い。
電車の騒音をグラフで表すと、緑の部分のような形になる。
普通の話し方のアナウンスをグラフにすると、青の部分のような形になる。
このような形に、音が重なっているということは、普通のアナウンスは、
ほとんど、電車の騒音に埋もれてしまっていることを表している。
一方、車掌さん独特のしゃべり方をグラフにすると、赤のような形になる。
騒音を超えている高い成分の音は、騒音に埋もれず私たちの耳には、際立って聞こえる。
その結果、アナウンスの聞こえやすさの差が生まれる。
この高い音の成分を生み出しているのは、「鼻腔共鳴」という技術。
普通は、「口腔(こうくう)」という口の隙間を通って出す声を
より狭い「鼻腔(びくう)」という鼻の隙間を通して出す方法。
こうして生まれる高音の成分が、騒音の中でも、聞き取りやすい声になっている。
しかし、最近では、放送装置の性能が向上し、
普通の話し方でも十分声が届くため、あの話し方は激減している。
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