眠くなるとおそってくる「眠気」って何?という話がありました。
これについて、眠りのしくみを研究している、上田泰己 先生(東京大学大学院 医学系研究科 教授)が説明していました。
まず、眠くなるには3つの仕組みがある。
1つ目は、朝起きて夜になると自然と眠くなる「体のサイクル」による仕組み。
2つ目は、自分が安心・安全な状況であると脳が判断すると、眠気が起きる仕組み。
ちなみに、不安や危険がある時に眠れないのは、このせい。
3つ目は、疲れたから眠くなるという仕組み。
昼間に体をたくさん動かしたり、徹夜をしたりして眠くなるのが、これに当てはまる。
この3つ目の「疲れると眠たくなる」という場合の「眠気」とは何なのか?
1900年代はじめから、眠気については、世界中で様々な研究がされてきたが、その正体が判明したのは、つい7年前(2016年)、
上田先生と研究チームが画期的な発見をした。
これまでは、なんらかの睡眠物質がたまっていくことで、眠気が起きているのでは?と考えられてきた。
実際に、1960年頃から80年代にかけて、いくつかの睡眠物質とされるものが発見された。
しかし、いざ、実験をしてみると、それらを作り出す遺伝子を取り除いても、眠ることができてしまうという結果になった。
その後も、確実に眠気を引き起こす物質は、謎。
しかし、2012年、上田先生は、学会に出席するために訪れたアメリカで、あることを思いつく。
眠りに必要だと考えられていた物質ではなく、起きている時に必要な物質の方に、眠気のヒントがあるのではと逆転の発想をした。
上田先生は、何種類もの、目を覚まさせる物質を使って、2000万個の細胞を作り、その中から眠りの反応があった1000個を分析。
共通の仕組みを見るけることで、眠気に関係のある物質を探り当てた。
それは、私たちにもなじみが深い栄養素である「カルシウム」。
実は、カルシウムには、神経を興奮させる働きがある。
食べ物などに含まれたカルシウムは、
体内に入るとカルシウムイオンへと変わる。
そして、筋肉を動かしたり、記憶や学習などをする際に、
脳にある神経細胞に出入りし、活性化させる。
例えば、勉強したり、運動したり、何かに感動したりして、頭が興奮状態になると、
神経細胞の中に、たくさんのカルシウムイオンが入り込むことになる。
いわば、「脳を起こす」、そういう役割を果たしている。
ただ不思議なことに、この脳を起こすカルシウムイオンが、細胞に入るほど眠気が起こる。
これは、神経細胞に、カルシウムイオンがたまって眠気が起こるということではない。
カルシウムイオンは、動きが速いので、細胞に入ってもすぐ出てしまう。
なので、カルシウムイオンが、どれだけ出入りしたかの記録が眠気と関係してくる。
例えば、どこかの会社に訪れた時に記入する、「入退室記録」がある。
入退室の時間や、名前や訪問の目的を書いたりするが、それと同じような形で、
神経細胞に出入りしたカルシウムの情報が、
記録として残る。
そして、記録がある一定以上のところまで達した時、
(入退室記録の1枚目の空欄が全部埋まるような感じ)
眠気が起きたり、眠りに入っていく状態になってしまう。
さらに、2枚目に記録が書き込まれていくと、深い眠りにつくようになる。
頑張れば頑張るほど、その証しとして、カルシウムの記録が刻まれ、眠気とつながっていた。
カルシウムを多くとればとるほど眠れるという単純な話ではないが、
カルシウムが足りないと眠りづらい、良い睡眠がとれない、ということはあるので、
必要最低限のカルシウムはとった方がよい。