洗濯物が乾くのはなぜ?という話がありました。
これについて、金沢工業大学で物理化学を研究している 草野英二 先生(バイオ・化学部 応用化学科 教授)が説明していました。
太陽光や風の影響で洗濯物が乾くと思いがちだが、洗濯物から水分がなくなる理由には、すごい仕組みがある。
そもそも、湿っている洗濯物の中にあるのは、水。
洗濯物が乾くのは、まず水の分子が洗濯物の表面から気体になって出ていく「蒸発」が起こるから。
(しかし、水は、沸騰して100℃にならないと気体にならないのでは?)
実は、水の蒸発は低い温度でも起こっている。
水は、沸騰すると、水蒸気となって気体に変化する。
沸騰の場合、水分子は、液体の内部からも、どんどん水蒸気になる。
一方、低い温度で起こる蒸発の場合は、水面にある水分子だけが空気中に出てくる。
水たまりが夜中に乾いて無くなったり、コップを置いておくと水が減る、
この蒸発が起こっているから。
(しかし、一体なぜ、水分子は低い温度でも、空気中に出ていくのか?)
水分子は、水の中で動き回っている。
中には、元気な水分子がいて、この元気な水分子が空気中に出ていっているから。
だから、洗濯物の水は低い温度でも蒸発していき、洗濯物が乾く。
しかし、蒸発と同時に、「凝縮」という現象も、洗濯物の表面で起こっている。
凝縮とは、空気中の水蒸気が液体になる現象。
例えば、夏に、冷たい飲料ボトルの表面に水滴がつく。
あれと同じように、空気中の水分が、水になり、洗濯物に戻るということが同時に起きている。
つまり、洗濯物の表面では、水分子は、気体になったり、液体になったりと、
常に、出たり入ったりしている。
洗濯物の表面では、水の出る量と入る量は釣り合おうとする作用が働く。
この釣り合いが崩れないと、洗濯物は乾かない。
(では、どうやって洗濯物は乾くのか?)
実際に洗濯物を干すと、「拡散」という現象が起こる。
これが、洗濯物が乾く秘密。
洗濯物の表面の空間は、水分子が混んでいる状態。
一方、洗濯物から離れた空間では、水分子が少ない状態。
すると、水分子は混んでいる所よりも、空(す)いている方に移動する性質があるので、どんどん、洗濯物から離れてく。
(例えば、電車で満員の車両から空いている車両に移動するようなイメージ)
空いている方が、居心地がいい。
そして、この水分子の拡散する現象は、「エントロピーの法則」により起こる。
エントロピーとは、簡単に言うと「乱雑さ」のこと。
この世の出来事のすべては、放っておくと乱雑さが増えていく。
そして、それは決して自然に元に戻ることはない。
例えば、芳香剤を室内に置くと、匂いは乱雑に広がっていき、二度と芳香剤の入れ物には戻らない、ということ。
実は、この乱雑に広がる理由は、あらゆるものには、常に均一になろうとする働きがあるためで、
この場合、芳香剤から出た匂いは、放っておいても周りの空間に、どんどん広がっていき、とても薄くなり、そして均一となる。
洗濯物の場合は、洗濯物表面近くの空間では、水分子の量が多い、つまり、湿度が高い状態となっている。
そこで、拡散が起こり、洗濯物表面での水の出入りの釣り合いが崩れて、水がどんどん出ていくので、洗濯物が乾く。
このように、拡散によって水分子が衣類から離れ、空いている空間に移動することで、洗濯物は乾いていた。
一方、周りの空間の湿度が高いと、水蒸気の拡散が起きにくいので、洗濯物が乾きにくくなる。
湿度が高い日や、湿気がある部屋では、洗濯物が乾きにくいのは、このため。
(では、洗濯物が乾くのには、風や温度は、関係ない?)
いえ、関係はある。
温度が高いと、水分子の動き方が激しくなる。
さらに温度が高いと、空間中に多くの水分子を含むことができるので、拡散も激しくなり、洗濯物が早く乾く。
次に、風だが、乾いた風が吹くと、
洗濯物の周りにある湿った空気、つまり水分子を多く含む空気が、風とともに移動していく。
すると、水分子にとって、居心地のよい空間ができるので、洗濯物の表面にある水分子は、どんどん蒸発し、洗濯物は乾いていく。
こういった理由から、早く洗濯物を乾かすには、
暖かくて、湿度が低い、カラッと晴れた日に、適度な風が吹いている状態が、一番。