逆さまにしても落ちない、叩いてもコツコツ音がする、指紋が残るくらいの粘着する↓こちらの物体。
実はこれ「ピッチ」という「液体」なんです!
ピッチとは?
道路の舗装などに使われる素材。個体に見えるが、「水の2300億倍」の粘度を持つ液体。
このピッチをロートに入れて下のビーカーに垂れるまでひたすら待つ実験があるといいます。
実験の意味は、もし垂れれば液体と証明できるということです。
このピッチが1滴垂れるのを見るためだけに10年待つ、そんな途方もなく時間のかかる実験に挑んだのが、オーストラリアのクイーンズランド大学のトーマス・パーネル教授(実験開始当時46歳)です。
今でこそ10年くらいかかるということがわかっていますが、実験開始当初は何年で垂れるかは不明だったので、恐ろしいほどの根気が必要でした。
実験開始から10年後の1938年12月、パーネル教授は、最初の1滴目がいつのまにか垂れていたことを発見します。
垂れたことでピッチが液体だということは分かりました。ただ垂れた瞬間を自分の目では見ていないので100%の証明ということにはなりませんでした。
自分の目で確認しようと実験を続け、2滴目が垂れたのは、8年3か月後の1947年2月!残念ながらまたしても見逃してしまいました。
前回が10年後だったので、10年後に垂れると思い込んでいたのです。(8年というとまだちょっとピッチから気持ちが離れている時です)
そして、翌年パーネル教授は67歳にして、志半ばでこの世を去ります。実験開始から21年、ついにピッチが垂れる瞬間を見ることができませんでした。
これで実験が終わるかに見えましたが、しかし!
パーネル教授の部下、ジョン・メインストーン教授(実験開始当時26歳)が遺志を継ぎ実験を再開したのです。(液体の実験なのにストーンはふさわしくない名前?)
しかし、なんとこの方は、ピッチが垂れるのを3回連続で見逃してしまいます!(8,9年周期です。25年間何も見ていないということです)
ただ何も考えずに失敗していたわけではありません。
ピッチが垂れるタイミングをプラス・マイナス数日ぐらいの精度で見極められるようになりました。
そして1988年、実験開始から27年、その瞬間が近づいてきました。
あと数日でピッチが垂れる、メインストーン教授は、研究室にこもり不眠不休で眺め続ける作戦にうってでました。
しかし!買い溜めていた食料が尽きてしまい、食料を買うため研究室を離れました。その間わずか5分!
なんとその5分の間にピッチが垂れてしまい、またもピッチが垂れる瞬間を見逃します!
しかし、ここで文明がメインストーン教授に味方します。長時間撮影可能なビデオカメラが登場します!
月日は流れ、2000年11月、実験から39年、通算6度目のチャンスが訪れました。
そして肉眼でも見ようと再び研究室にこもります。
そして迎えた、2000年11月28日、またしてもピッチが垂れました。
しかし、カメラの設置で安心してしまったのでしょうか、当時65歳のメインストーン教授は、連日の徹夜で爆睡してしまいました。
ただ今回はビデオカメラがある!急いで確認してみると、映っていたのは砂嵐!あろうことか機材トラブルで映像は撮れていませんでした。
そうこうしているうちに、2013年7月、アイルランドの別の研究チームがピッチが垂れる瞬間の撮影に成功したのです!
そして、メインストーン教授は先を越されたのがよっぽどショックだったのか、翌月、かえらぬ人となります。(享年78歳)
(メインストーン教授は天国でパーネル教授にどんな報告をするのか?→ピッチが垂れるのを見たと嘘を付いているかもしれません)
2人の研究者が人生を捧げて、86年間撮影できなかった映像がこちら。
垂れたというよりは、ちぎれたという感じです。
ただ、この垂れた瞬間を生で見た人間はまだ一人もいないということです。
一生懸命に研究をしているので失敗を笑ってはだめなんですが、爆笑してしまいました。
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この「ピッチ」の話の後に、「非ニュートン流体」の話があっておもしろかったです。