虫が小さいのはなぜ?という話がありました。
これを 野村昌史 先生(千葉大学大学院 園芸学研究科 応用昆虫学研究室) が説明していました。
昆虫といえば、大きくてもせいぜい10cm 程度のものがほとんど。
哺乳類など他の動物に比べて、虫が小さいのには、大きく分けて2つの理由がある。
骨がない
虫が小さい1つ目の理由は、昆虫には「骨がない」こと。
虫の体内には、人間のように体を支える骨がない。
そのかわりに、虫の体を支えているのが、体を覆う硬い皮。
この硬い皮のことを「外骨格」という。
これが、虫が大きくなれない原因になっている。
体内に骨を持つ人間と外骨格しか持たない虫を建物に置き換えて考えてみると、
人間は、内部に骨という柱を持つ大きな「一軒家」。
逆に虫は、内部に柱を持たない壁だけの「犬小屋」のようなもの。
小さい犬小屋なら柱は要らないが、大きな家をつくる時には、全体を支える柱が必要。
逆に、柱を持たない犬小屋が大きくなってしまうと、その重さに耐えられず、犬小屋は潰れてしまう。
つまり、内部に柱となる骨を持たない虫は、あまりに体が大きくなると、外骨格だけで、その重さを支えきれなくなってしまう。
肺がない
そして、虫が小さい もう1つの理由は「肺がない」こと。
人間の体内では、口や鼻から吸い込んだ酸素を肺の中で血液に取り込み、全身に送るという「肺呼吸」が行われている。
一方、虫の体には、この肺がなく、全く別の呼吸方法で全身に酸素を供給している。
それが「気管呼吸」という呼吸方法。
多くの虫の体には・・・、
「気門」という、呼吸のための穴がいくつも開いている。
こちらは、カブトムシのさなぎのCT画像。
気門とつながっている「気管」という、体中を巡る管を通して、体内に酸素を取り込んでいる。
しかし、この気管呼吸では、気門から徐々に酸素が入っていくだけで、人間のように、酸素を強く吸い込んでいるわけではない。
小さい虫なら それでも大丈夫だが、体が大きくなると、内部まで十分に酸素が届かない。
つまり、肺を持たない虫の呼吸方法では、体が大きくなった場合、十分な酸素を体全体に行き渡せることができなくなってしまう。
逆に、今よりも酸素濃度が高い環境であれば、体に入ってくる酸素が多くなり、虫の呼吸方法でも今よりも大きな体を維持できる可能性がある。
実際に、アリゾナ州立大学の研究室で、酸素濃度を通常の1.5倍に設定した室内で、トンボを飼育したところ、なんと通常よりも15%大きく成長したトンボが誕生。
この結果を見ても、呼吸の仕組みが、虫の体が小さいことに大きく影響していることがわかる。
ちなみに、酸素濃度1.5倍は、約3億年前の地球と、ほぼ同等の環境。
この時代には、今より巨大な虫が生息。
こちらは、メガネウラの化石 (※トンボではない)。
見た目はトンボにそっくりのこの昆虫。
現代のトンボと比較すると・・・、
なんとも規格外の大きさ。
羽を広げた横幅は、実に70cmにも及び、「史上最大の昆虫」ともいわれている。
虫の小ささの原因になっている外骨格は、身を守る硬い盾にもなっている。
気管呼吸も体が小さい虫に限っていえば、体を動かすのに欠かせない酸素を全身から吸収できるという優れた仕組みになっている。
これによって、虫のパワフルな動きが生まれている。
補足
エビやカニなどの体を覆っているのも「外骨格」。
イセエビやズワイガニなどの体が大きいのは、水の中で生活しているために浮力によって、外骨格で支える重さが軽減されるからと考えられている。